ガ ラ テ ア
兄ちゃんと探検した納屋に『人形』を見付けた十歳の冬、その日からオイラたちは『人形』に首ったけ。それはオイラたちだけの宝物だった。
秘密の。
直感的に、ヤバいものだとわかった。オイラたちの眼前、櫃の中に横たえられた白い人形は閉じた目を開きもせずただ綺麗な物体として其処にあった。
オイラは兄ちゃんと顔を見合わせ、「……これ、部屋に持ってっちゃダメなんかな?」
双子の兄はしばらく逡巡してから、「──やめとこう、僕たちがこれを見たことは、バレちゃいけない」と言った。ものすごい警戒心で。
兄ちゃんも、『人形』を失いたくなかったのだろう。
其の夜も、兄ちゃんと一緒に納屋にいた。『人形』を発見してから三年、どんどん綺麗になっていくソレは触れば柔らかく、オイラたちの好奇心を刺激した。抱き締めてみればイイ匂いがして頭がクラクラすると知って以来、オイラは益々『人形』に夢中だった。
閉じた瞼は動かないのに、
「葉、気付かないか? これが成長してるってことに」
そう言った兄ちゃんの顔はひどく嬉しそうで、オイラも同調する。──気付いていた。オイラたちの宝物は、確実に背丈と髪を伸ばしている。肉付きが変わってきている。
「このあいだ、」と、兄ちゃんが呟く。「裸にしてみたんだ」
「どうだった?」
「見ればわかる」
いそいそと、『人形』の帯を解いてみる。襦袢を開いて見た本体は──
オイラを欲情させた。
薄紅色の小さな突起を頂く双丘に触れれば、此の世のものとも思えない感触で手指を惹き付ける。側にいる兄ちゃんのことも忘れて愛撫している間に、すっかり硬くなってる此の性器。
唇や乳首や鳩尾に夢中で口付けながら、細い脚の合間に片手を伸ばす。複雑そうな箇所に触れた瞬間、ぞくりとした。
「……なあ、葉王」
「ん?」
「ヌルヌルするぞ、ここ」
「──なんだって?」
「だってホラ、触ってみろよ」
オイラと場所を交替した葉王は丁寧な手つきで薄い襞をめくり、第一関節までを潜らせ「本当だ」と呟いたきり、絶句した。
構わず兄ちゃんと(ふたたび)交替し、『人形』を弄りはじめる。──女の子の唇って、やわらかいモンなんだな──
オイラの中では最早、『人形』は人形ではなかった。友達より、持霊より、家族より、大事な宝物──いや、『モノ』でもなくなっていた。『彼女』には『彼女』としての実態と生があるのだと思いはじめていた。
……だったら名前が欲しい。『人形』なんていう無機物的じゃない、生きて機能する名前が必要だ。
「聞くんだ、葉」と、兄ちゃんが低く言った。「僕はこないだ、今のお前と同じようなことをしてみた。その時は、何の反応も無かった」
「そうか」
「お前、今、勃ってるだろ」
「ああ」
「何をすれば良いか解るか?」
「わかる」
ズボンを脱ぐヒマも惜しかったから、掴み出した性器を目分量であてがい、そのまま沈めた。
その唇から、乱れた息が漏れた──気がした。
秘密の宝が持つ名をオイラは知っていた。──思えば、はじめて見た時から知っていた。
なんで呼ばずにいたんだろう?
腰を打ち付けることに埋没しながら、其の名が口から零れ出た。
「アンナ」
きつく抱き締めたまま未成熟な精液を最後の一滴まで注ぎ込み、その首筋に顔を埋めて息を吐き──
アンナの目が開いたことなら、見なくてもわかっていた。
傍の兄ちゃんが、「おはよう、アンナ」と微笑んでいた。
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